ペガサスの白い砦 ~pegasuswhite~

Sylvan Sylph 森の妖精 2


物語の一話目はこちら→□ 2ページ完結



2.

沼の先の花


 広大な森。
獣達が食らい付きあって、透明な泉の中に2体で倒れて行った。水しぶきをクリスタルみたいに舞わせて血の色に染めて行った。
 森の奥にある沼を見た。相変わらず闇の中を、美味しそうな紅の花が沼の先で咲き乱れていた。
沼の管理を「幻の場」のオーナーに任されている沼の主が、沼の死体の腐敗気を器用に避けながら、渡し船をゆっくり静かに操っていた。
水煙の沼の先、常しえに思える闇に広がる紅花の光景は幻で、「幻の場」の光景を闇霧の先に移しているものだった。
「幻の場」を求める人間達がこの森に入って、沼に来ても当然たどり着けない。沼の主が渡し船を渡し、他の入り口から入ってオーナーの下、精神試練を乗り越えられたものだけが、舟に乗り再びこの世界の森の地を踏める場所。
紅花の幻に惑わされ、沼を森から渡ろうとすれば、夢幻にやられてしまうだけ。
 また森を見て、きよらかな夕霧が出始めた。
モルモラはいない。
この時間はお家の中かな。
 緑の島の中心に位置する草原を見た。
南にこの森、北に山脈。西にモルモラ達の人間の村。東に動物達の湿地世界。
どこも澄んだ美しい世界が広がっていた。
「あ……。モルモラだ……。」
モルモラは、草原の隅の花畑でボール遊びをしていた。
モルモラ、花畑にいたんだ……。今日は一人。
モルモラ、あたしの事、忘れたのかな……。



森の出口で


 あたしはその日も、木の枝にすわり、森の入り口の影から草原を見ていた。
「モルモラ……」
 草原。緑の草を風がさらさらと撫でて行く。
 モルモラがお父さんとお母さんに手を繋がれていた。
モルモラ。
あたしは手を振った。
でも、モルモラはあたしに気付かずに、帰って行ってしまった。
あたしには微笑みを、欲しかったのに、くれなかった……。
そのまま気付かずに行っちゃった。

やっぱり、あたしの事、忘れちゃったんだ……


モルモラ


 今日は絶対みんなに内緒で森に行くんだって決める。
最近、わたしが一人で遊びに行ってみんなと遊ばないから、誰もわたしと遊ばなくなってしまった……。
でも、いいわ。
わたしには、森のお友達がいるから。

カーベルちゃんと、内緒の約束……

ずっと森の中をわたしは走って、泉の方にも行って、ずっと探した。
息が切れて来たけど、ずっと探した。
静寂なままの森。何も変ってない。ずっと前のまま。
カーベルちゃんだって、そうだわ。
そうなんだわ……
カーベルちゃんは、変わらずにい続けてくれる子……きっと、そう。
カーベルちゃんは、いなかった。
お花の、とても綺麗な香りのする、とっても可愛らしい女の子。
「……カーベルちゃん」
どこにも、いなかった。
 下が暗闇の崖までたどり着いていた。わたしは足がすくんで、そっと見下ろした。何もかも吸い込むような常闇が広がっていた。
吸い寄せられるような闇……静寂と。
もしかして、ここから落ちちゃったのかな……そんな!!
わたしは身を乗り出していた。
足を瞬間滑らせて……
視界の空高く、真っ黒くて巨大な影が、見えた気がして……


カーベル


 パパが美しい青の地球に帰ろう。それで帰る事になった。
大人の巨大な猛禽類になったあたしの背にみんなを乗せて、一気に暗い森から夜の空に飛び立った。
蒼い月が、銀の光を広げては美しかった。大きな黒の羽根で涼しく緩い風を切る。
「……。」
パパがあたしの背から森を見渡し、月光に照らされる鮮やかな深青の瞳を細めて見下ろした。
パパの闇色の髪がさらさらと深青を隠しては覗かせて、パパは瞳を閉ざして首を振り、溜息をついた。
「どうしたの? 忘れ物?」
「……。いいや。」
そう静かに言って、また月光を見上げた。
「ふうん……?」
 あたしはここから離れるけど、モルモラに贈り物をするわ。幻想の魔法を。
月光がキラキラと幻想的な海を煌かせて……。
今度森に来るときにはもうモルモラ、一人だけど、あたしの幻が、森の入り口で待ってるから。
言えなかった「さよなら」、言うから。
「ありがとう」って。


モルモラ


 わたしは目を開けて、暗い中を見回した。
上から暖色の光りが漏れている。ガサガサと音が鳴っていて、何かたくさんの冷たい物が頬に触れている。
上を見上げて、それはわたしが持ち歩いていた電気灯だった。それが筒の硝子に厚い葉を写し、そして黄色く照らしている。
 わたしは崖に生えた枝に抱き上げられるかの様に、引っ掛かり乗っていた。
手を伸ばして、どうにか灯りを手に取ろうとする。
ちらりと見えた闇の崖下には、何も見え無いけれど、サラサラと水の音が流れに流れている。
カナシの持って来てくれた地図でこの前、見たわ。森の背後には海があって、そこに流れていくんだと思う。
 どうにか電気灯を手に持って、抱えるかの様に持った。崖に挟まれた細長い天を見上げる。木々が厚く重なり合い、ここから上がる方法なんて分からなかった。
辺りの太い枝分かれした枝を見回して、首をかしげた。
枝が故意に編みつくり重なり合ってわたしの事を支えていたから。まるで、他からの力でそうされたみたいに。
不思議なこと……。
 でも、ここから上がる事が出来なければ、お腹も空いてしまうわ。
暖かいパスタとか、食べたい。
「パパ!」
大きく木霊して、返事は獣すら返さなかった。
「ママ!!」
暗くて恐いわ。電気灯で温まっているけど、頬を下から吹き付ける風が撫でて行って、冷たい。
「お願い!助けて!」
大きく声を出すと、枝が揺れる。わたしは涙が流れて来て、必死にぬぐった。
 ガラッと、音がした。
わたしはまた暗がりの天を見上げた。重なり合う葉は、まるで我が子を守るようにわたしを優しく枝という腕で包んでくれている。
その崖上に、誰かがいる黒影。
……獣ではありませんように。
「グルルン」
涙が溢れ、その獣らしい黒影は背後を振り返って、見えなくなった。
またすぐに、砂がパラパラと落ちて来た。
「どうした。何かがあるのか?」
「!」
必死になって電気灯を振った。
あの大きな大きな猫ちゃんを連れた、草原のお花畑でボールを拾ってくれたお兄さんの声。
「助けて!落ちたの!」
わたしは叫んで、ビンビンと自分の声がこだましては、下の闇の中に吸い込まれて行った。そして、かすかな水流に変った。
森の神様がきっと、助けてくださったんだわ。
だって、カーベルちゃんのいる森だもの。素敵なことが起こる森なのよ……。森林の神様が、枝をわたしの為にホール型にして下さったんだわ。
それで、あのお兄さんと大きな猫さん、黒豹を連れてきてくれたのよ。
わたしは、枝に手を当て、ありがとう、と優しく撫でてから、また見上げた。
 お兄さんは、何かを思い切り回していた。彼が黒い毛皮服の腰に大切そうに巻いていた、変わった形の白金で出来たチェーンだった。
それがヒュン、と白く光って、オモリがわたしの腰に巻きついて、わたしを抱いてくれていた枝が一瞬で遠くなって行った。
わたしはその瞬間手を伸ばし、舞った葉が手を通り抜けて闇に舞い消えて行った。
 わたしはお兄さんにしがみついて、思い切り泣いていた。恐くて恐くて仕方無かったから。
わたしはそのまま、気絶したみたい……。

 目を覚ますと、わたしは野原のお花に囲まれて、緩い陽射しの中を眠っていた。目を覚まして、花が薫る。
ピンク色の蝶々達が、色とりどりの小花を彩って綺麗……。その蝶がわたしの頬に止まって、痛くて手を当てた。
手が赤く塗れた。痛かった。立ち上がって、服の中にもぐりこんだ濃い緑色の葉が、舞って綺麗な花畑の一部になった。
広大な野原を見渡した。どこまでも続く草原。
わたしは急いで背後の森に駆け出して行った。
まだ明るいわ。
カーベルちゃん、また森の出口にまで来てくれているかもしれない!
「モルモラちゃん!」
わたしは、お友達の声で振り向いた。
「どうしたの?お洋服に土がついているわ!」
わたしは土を綺麗に払い落としてから、お友達を見て微笑んだ。お友達もにっこりした。
≪秘密のお友達。≫
わたしは、カーベルちゃんがした寂しそうな目を思い出して、意を決した。
「みんなに、紹介したいお友達がいるの!」
きっと、たくさんのお友達を本当はつくりたいはずだわ。絶対にそう。
だから、わたしのお友達を紹介したい。みんなで遊ぼうって、言ってあげたい。
 わたしは森の入り口まで、歩いていった。
とっても可愛い子なの。とか、綺麗な香りのする子なのよ。とか、森の中の素敵なお友達なの。とか、カーベルちゃんのことを話しながら歩いて、みんなもうきうきして並んで着いて着ていた。
 森の入り口が近づいた。
わたしは木の枝に手を掛けて、そっと、呼びかけた。
「……カーベルちゃん。」
今日は、いるかな……。
わたし達は森の暗がりをしばらく見つめていて、「あ!」と、後ろの子が言った。
「……カーベルちゃん!」
カーベルちゃんは、ハイヒールの足をゆっくり進めさせて、森の影と光の間に立って、わたしを見上げて、にっこり微笑んだ。
「こんにちは。モルモラ。」
粉雪の様な声が、シンと、光の中に溶け込んだ。
「良かったカーベルちゃん!会えて嬉しい!」
カーベルちゃんは嬉しそうに頷いて、背後の闇は彼女のビロードの黒と、同化するように横たわっている。
ふわふわの髪は柔らかく揺れた。
「あたしもモルモラに会えた事、とっても嬉しい。」
年齢よりの、落ち着いた子で、何か、永く生きて来た雰囲気があった。
い続けてくれる、変らないことの安心感……。
「あのねモルモラ。」
「なあに?」
カーベルちゃんはにっこり微笑み、小さなその手を振った。
「カーベルちゃん?」
「あたしね、今日はモルモラにさよならを言いに来たの。」
わたしは驚いて目を開いた。カーベルちゃんは、微笑んでくれている。
「あたし、モルモラと出会えて、幸せだったわ!」
「カーベルちゃん。」
あの子は、大きく手を振って、言った。
「ありがとう!」
透明な涙が流れて、そのまま、美しい煌きがカーベルちゃんを取り囲み、フ、と、あの子は美しい光となって……。
「カーベルちゃん……」
ぼうっとして、わたしは光が闇に重なり、美しく彩らせたのを見ていた。闇は、艶を持った美しいものなんだって、思った。
カーベルちゃんのように……。
「森林の妖精みたい……モルモラ、妖精とお友達だったのね!」
わたしは眩しい野原を振り向いた。
その顔は、涙が流れていた。お友達が驚く前に拭って、にっこり微笑んだ。
「ね!素敵な子だったでしょう?」
さようならカーベルちゃん。
そして、ありがとう。大切なわたしの森林のシルフ、カーベルちゃん。

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皆様

ペガサスホワイトの作品を読んでいただき

どうもありがとうございました

pegasuswhite



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<あとがき>

この作品が作られて丁度10年目。

2003年12月13日に生み出された物語です。

その時代から森を舞台にした作品が増え始めた様に思います。

緑や木々、森の情景は心を落ち着かせるとともに、若さから来る心の不安もあいまっていたけれど、

幾度となく毎年来る新緑の季節は心を癒されてきた恩があります。

歩いていて見つける花の可愛さ。可憐さ。けなげな姿。

木々の偉大なる生命。太陽のありがたさ。自然への感謝。

いつかはこちらが力をきよく与えてあげたい。

10年前よりはるかに自然への愛や護りたい心が大きくなりました。

青い地球を愛すること、私は誇りに思う。

美しい地球に生まれたこと、感謝します。
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by pegasuswhite | 2013-03-11 02:07

心を解くと聴こえる声がある。それは懐かしく、温かなはずで……
by ペガサス
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